ベンチャーズの「ウォーク・ドント・ラン」をオリジナルと聴き比べてみる(その2)
①ベンチャーズ「ウォーク・ドント・ラン(未発表バージョン)」(2013年11月発売のCDアルバム「ロング・ロスト・ホンカーズ&トゥワンガーズ」より)0:00~ ②ベンチャーズ「ウォーク・ドント・ラン」(1960年5月発売のシングル)2:04~ 1958年の春、太平洋岸北西部に位置するワシントン州最大の都市シアトルから南に50㎞ほどの小さな町タコマでドン・ウィルソンとボブ・ボーグルが出会い、ギター・デュオを組んだのは2人が25歳と24歳の時でした。普通は中学生、高校生で友人とバンドを組み、10代でデビューすることも珍しくないのに彼らにはそれまで全くバンド経験がありませんでした。ドンは中学校のブラスバンドでトロンボーンを演奏した経験はありましたが、ギターを弾くようになったのは兵役でドイツに駐留していた21歳の時でした。ボブは14歳の時に兄からギターを譲り受けましたが、彼は中学を出るか出ないかぐらいで働き始めたのでギターに没頭する余裕はありませんでした。ですから2人ともギターが得意というわけではありませんでしたが、出会ってからギターが共通の趣味だとわかって2人で合奏するようになり、人前で歌ったり演奏したりすることに楽しみを見出すと、いずれは自分たちのレコードを出し、音楽の世界で成功することを夢見るようになりました。 すでに社会人となり、家庭を持っていた20代後半のギター初心者2人がプロのミュージシャンを目指すなどということは身の程知らずというか常識外れの行動だと思われますが、そんな夢みたいな計画を止めるどころか自ら自主レーベルを立ち上げて息子たちをバックアップしたのがドンの母親ジョシーでした。息子たちの才能を信じていた彼女は音楽好きではありましたが、それまで音楽業界に携わったこともなく、レコード制作の知識もない、ごく普通の主婦でした。しかし、彼女は自分の貯金をはたいて息子たちのレコード制作のために自主レーベル “ブルー・ホライズン” を独力で立ち上げ、自ら地元のレコード会社やラジオ局に積極的に売り込みをかけるなど彼らのデビューを強力にバックアップしたのです。彼女の存在なくしてベンチャーズという偉大なグループが誕生することはなかったでしょう。 ベンチャーズが世に出るきっかけとなった大ヒット作「ウォーク・ドント・ラン」は彼らが自主制作した2枚目のレコードになります。最初のレコードは1959年9月に録音された「リアル・マッコイ/クッキー&コーク」ですが、ドンの歌うボーカル曲はたいして売れませんでした。そのため、方針を切り替え2枚目はインスト曲で行こうということになり、1960年3月、「ウォーク・ドント・ラン」をレコーディング、5月に地元ラジオ局でオンエアされたこの曲をドルトンのボブ・レイズドルフが聞いて「ヒット間違いなし!」と確信、すぐにベンチャーズと契約し、リバティの販売網を通じて6月に全国発売するとあっという間に全米2位の大ヒットとなり、ベンチャーズは一躍スターダムに駆け上がることになりました。 まさに “アメリカン・ドリーム” を体現した形の「ウォーク・ドント・ラン」ですが、リリースされたレコードは実は3回目に録音されたバージョンで、ベンチャーズはドルトン盤がヒットする前にこの曲を2回録音していたことが知られています。1回目は1959年4月にタコマにあるドンの姉ジャクリーンの家の地下室でドンとボブの2人がデュオとして演奏したものですが、その録音テープはドルトンのボブ・レイズドルフのもとに持ち込まれたものの、バッキングもないギター2本だけのバージョンはあえなく却下されました。2回目の録音は1959年10月にタコマのナイトクラブ、ニューヨーカーのオーナー、アート・ミネオの好意により、日中、店がクローズドしている時間にステージを借り受けて行われたバンド録音で、これが今回の動画で紹介するバージョンです。この未発表バージョンではドンとボブが2人でリードを取り、ノーキー・エドワーズがベースを担当。ドラマーはおそらくスタン・スミスという男で、彼はスキップ・ムーアとハウィー・ジョンソンがベンチャーズに加入する前にスポットで起用されていた人物です。 この音源は2013年11月、英国エース・レコードから発売された「ロング・ロスト・ホンカーズ&トゥワンガーズ」というCDに収録されているものです。エース・レコードといえばベンチャーズのレア音源を集めた「ベンチャーズ・イン・ザ・ボールト」シリーズ(全5巻)で有名ですが、この新たなCDは収集対象を60年代のインスト・ロック・バンド全般に広げ、未発表の希少な音源を広く網羅したもの。ベンチャーズをはじめ、ジョニー&ハリケーンズ、ファイアボールズ、チャンプスなど15グループ、全26曲が収録されており、この「ウォーク・ドント・ラン」の未発表バージョンはその中でも超貴重な目玉作品として取り上げられています。 「ウォーク・ドント・ラン」はドンとボブがバンド結成当初、ギター練習の手本としていたチェット・アトキンスの1957年のアルバム「ハイファイ・イン・フォーカス」に収録されていたバージョンをもとに1年以上の試行錯誤の末、自分たちのアレンジを完成させたものですが、この2回目の録音ではドンとボブがツインリードによりメロディーを掛け合いとユニゾンで弾いています。これはおそらく複雑なチェット・アトキンスのプレイ・スタイルを彼らなりにより良く表現しようとしたためでしょう。いずれにせよ、基本的なアレンジはこのバージョンでもすでに完成していますが、その後のドンのキャリアを決定づけるリズムギターのパートがなかったり、イントロも完成形より1小節短い2小節の仕様になっていることから彼らがアレンジに試行錯誤している様子がありありと伺えます。この形で世に出ていたら爆発的なヒットは望むべくもなく、その後のベンチャーズのキャリアも全く違ったものになっていたことでしょう。 #TheVentures #WalkDontRun #TheSecondDemo ■■これまでにアップロードした動画の再生リスト■■ • ベンチャーズの名曲をオリジナルと聴き比べてみる

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