川田十夢 - 水脈 , TOM KAWADA - Vein of Water

膨張する憤怒。連帯する家族。老朽化したままの水道管。神は水道事業を担当しない。血が透明になることはない。コーラはやっぱり、真っ黒い色のまま飲み干したい。不純物の名残りとともに。 ただの水がミネラルウォーターと呼ばれるようになり、お金を出して買うようになった。六甲のおいしい水とか、エビアンが出たときのことをよく覚えている。かつて観音開きだったテレビと全く同じ尊敬のされ方で、首からさげる革製のエビアン入れが静かに流行し、まもなく廃れた。30年以上経つのに、まだ記憶に新しい。水溶性の年表を作ることで、タイムラインとは異なる流れから水脈と接続したい。 膨張する憤怒。連帯する家族。老朽化したままの水道管。神は水道事業を担当しない。血が透明になることはない。コーラはやっぱり、真っ黒い色のまま飲み干したい。不純物の名残りとともに。 鉄骨飲料が出たときは、12歳だった。乾燥した本棚の渇きを潤すように透明度の高い本を貪るように吸収。水と同様に、軟質のものがあれば硬質のものもある。毒性のものだってあるし、読み物はとっくに飲み物であった。 なかでも秀逸だったのは、フランシス・ポンジュが書いた『物の味方』。この詩集には、化学調味料めいた人間味が含まれていない。雨や秋の終わりや羊歯のラム酒などといった物(ブツ)が、登場人物のように扱われている。 膨張する憤怒。連帯する家族。老朽化したままの水道管。神は水道事業を担当しない。血が透明になることはない。コーラはやっぱり、真っ黒い色のまま飲み干したい。不純物の名残りとともに。 物の味方は必ずしも饒舌ではない。余計な修飾をしない。嘘をつかない。例えばラム酒の味方になることで、若葉の隙間からブラジルが見える。推理小説の文法を使わずとも、物証を辿る必然が生まれる。謎解きという行為は、一般の読者からすると酷く窮屈。想像の余地を残さない構造になっている。言わば時間芸術の限界、露骨に拡張してゆきたい。 物に記憶できる仕組みは、い・ろ・は・す とまとが出た頃に開発した。したきり、目立った動きをしていない。何か足りない。物の味方になれる語り部が少ない。万物が読み物になる享楽を、人類はまだ知らない。物語の水源をまだ確保できていない。 膨張する憤怒。連帯する家族。老朽化したままの水道管。神は水道事業を担当しない。血が透明になることはない。コーラはやっぱり、真っ黒い色のまま飲み干したい。不純物の名残りとともに。 /// 川田十夢の公式プレイリストを作りました。    • 川田十夢の公式プレイリスト