第44話 魏志倭人伝と陳寿

邪馬台国とか女王卑弥呼の名前は、魏志倭人伝という本に載ってるんだというふうに思ってある。中国で陳寿が書いた「魏志倭人伝」という本に載ってるんだと、思い込んでいる人がほとんどです。学校でも、魏志倭人伝という本の名前を教えます。だから皆さん、そう勘違いしてしまってる。だけど本当は、中国の正史の中で、陳寿が書いたものに、魏志倭人伝という文献はない。本当は、陳寿が書いたのは、「三国志」という本です。  中国で、殷、周、秦、漢があって、その後に、魏の曹操と、呉の孫権と、蜀の劉備玄徳、そして途中から諸葛孔明が収めた、魏と呉と蜀という、そういう三つ大きな国があって、それがお互いに制覇の争いをやっていた。その時代のことを書いた「三国志」というのを、陳寿は書いた。その三国志の中に、魏のことを書いた魏書、それから呉のことを書いた呉書、それから蜀のことを書いた蜀書という、三つの部門に分かれているけど、その中の「魏書」の部分が30巻あって、その中に、東の方の国のことを書いた「東夷伝」というのがある。  東夷伝というのは、どこから来ているかというと、「中華思想」って聞かれたことありますか?いろんな考え方の中で、中華思想という言葉がある。中国の「中」、真ん中という意味ですね。そして、華やかの「華」。中華人民共和国の「中華」。なぜ中華人民共和国というのか。それは、「真ん中にいる私たちが一番華やかな人民です」ということで、中華人民共和国と名前をつけてる。  そして、東西南北には、例えば、東には「夷人」がいる。西には「西獣」がいる。南には「南蛮」がいる。北には「北狄」がいる。そのように、東西南北のそれぞれに、そういう人たちがいるという考え方があって、それを中華思想という。そこから来た、東にいる田舎の人たちのことを書いた「東夷伝」の中の「倭人の条」。これが1985文字で書かれ、これを通称、「魏志倭人伝」と呼んでる。  しかし、これは日本で読んでるだけで、中国の人は魏志倭人伝といったら何のことかわかりません。なぜならば、中国では三国志しかない。魏志倭人伝という文献はありません。だから、そこのところで、今までの考え方を修正しておく必要がある。「魏志倭人伝という文献はないんだよ」ということを。  この本は、本文は漢文の棒書きで書かれている。つまり、返り点が打ってありません。でも、中国人は、すらっと読めるんです、。なぜかというと、中国人はもともと漢文が中国の言葉ですから。だからすらっと読めるけど、日本人は返り点をつけないと読めない。つまり返り点がない漢文の棒書きなので、なかなか日本人には読みにくい。  それともう一つは、人とか国の名前の固有名詞のところは、「借字」で書かれている。だからこれは、そのまま国や人の名前が書いてあるのではなくて、それは読み方だけですよということを覚えておいてください。だから「卑弥呼」というのが書いてあるけど、あれは卑弥呼という発音のことを書いているだけであって、その人が、「卑しい」という字に、弓へんの「弥」に、「呼ぶ」という字を書いている、そんな意味の名前じゃないということ。  江戸時代から学者の先生たちの中で、あれは中国人が日本人を軽蔑してたから、だから「卑しい」という字を使ったんだと、盛んに言われた人たちがいるけど、あれは間違いです。そういうことで、あの漢字を使ったんじゃない。漢字は、その人が一番書き慣れている文字を書く。例えば、早書きをしないといけないから、考えている時間がないから、そこでひらめいたその発音の字を書く。同じ発音の一番自分が書き慣れているものを書いたはず。だから、別に、倭人のことを卑しい人種だと考えていたことではない。ただ単に発音を書いたものということで考えておいてください。 その中に、倭人や倭国のことがたくさん書いてあります。今、日本とか中国には、原本はなく、写本しか残っていません。現存する最古の写本といわれるのが、「紹興本」と呼ばれるのがあるけども、これが一番有名で、皆さんが見ているのはほとんどこの紹興本です。  西暦285年に陳寿の三国志が書き上がりました。ところが、陳寿は自分が創作で書いたんじゃない。それまでにあった本を写して書いたものです。例えば、「A」という本の中の何行目の何文字目~何文字目を写す。それに続けて、「B」という本の十何行目の何文字目~何文字目を写す。という風にしてくっつけていった、そして書き上げた。だから魏志倭人伝だけを見てたら間違います。  元本と並べて見てみたら、陳寿が書き写す時に書き忘れた文字があります。だから、「あ、この文字を書き忘れて落としてしまっている。」とわかります。重要な文字を、一文字書き忘れています。不彌国から後に、皆さん見られたことあると思います。不彌国、今の宇美町まで行くということはわかっています。そこから今度は、日にちに換算が変わります。日程に変わってしまいます。それを皆さん、くっつけて読んでいってしまう。不彌国までの里程計算から日程に変わったところを、そのままに続けて読んでいってしまう。だから間違うんです。  元本には続けて書いてないんです。全然違うところにあるんです。しかも、もともと、一冊には書いてない。一冊には書いてるけど、不彌国から後のところに、「又」という一文字が入っている。「又南へ至る」と書いてある。投馬国から邪馬台国に行くところも、「又、南に至る邪馬台国、水行十日陸行一月」と書いている。  この「又」の字があるということは、全然違うそれぞれの旅行記を書いたということ。つまり、帯方郡を出発したそれぞれの旅行記を書いたものを、それをくっつけてしまうから、全然違うところに場所が行ってしまう。本当は、邪馬台国と言いますか、あれは「ヤマダ」国と読むんですけど、つまり、ヤマダ国は不彌国である現宇美町から600里のところにあるということが、計算上出てきます。不彌国からヤマダ国までの間が600里しかないということは、つまり、この間に、「水行は一日も入れない」ということが明らかです。そのことを覚えておかれるといい。  また、意外と、この年号が重要だから、頭の片隅に置いておいてください。285年に三国志、通称魏志倭人伝はできました。そして、297年に陳寿が亡くなっています。それから4年後、つまり301年に上評文が出て、そして皇帝が華南伊と洛陽令の役人たちに、「陳寿の生家に行って、残っている書物を全て書き写して来なさい」という命令を出しています。どうしてかといったら、皇帝の手元に三国志がなかったんです。  陳寿は今、日本で有名だから、陳寿はすごい役職に就いてたと思ってしまう。しかし、そうじゃなかった。陳寿はトップのクラスまで上がっていってない。普通の役人で終わってしまっている。なぜかといえば、当時、宦官がはびこってた宦官に贈り物をして、そして宦官が皇帝に、「ちょっと階級をから上げてやってくれ」というのを宦官が皇帝に言う。「誰々はすごいものを書いたから、ちょっと階級を上げてやってくれ」という。そうすると皇帝が、役職を上げてくれる。自分が役職を上がって、長官になりたいと思ったら、賄賂を宦官に送って、そして宦官から皇帝に言ってもらうというのを、中国でみんながやっていた。  ところが、陳寿は性格があまりにも実直であったがために、そういうことが大嫌いだった。だから、一切賄賂とかを送らなかった。だから反対に、「あいつは生意気だ」と、左遷されて田舎に飛ばされた。三年、五年を田舎で暮らして、やっと本庁に帰ってきて、そしてまた素晴らしい文章を書いて、これから役職が上がっていくかなっていったら、また田舎に飛ばされる。それを何回も何回も繰り返して、とうとう最後は、「この三国志は素晴らしいものだから、上に上げよう」という上表がされた時、今度は反対に、陳寿の方から役所を辞めています。そして普通の人になって亡くなっています。  だから、陳寿の三国志の原稿というのは、陳寿の家に残っていたものが、それが一番最初の原稿です。このことは、中国の文献に、きちっと記録が残っていました。これを書き写すために、墨をどれだけ持って行って、紙をどれだけ、筆をどれだけ持って行ったというのが、全部記録として残っていました。だから、実際に、「陳寿の家に行って書き写しをした」というのが間違いなかったんです。

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