「アメリカ人亭主」の温泉宿 異国で悪戦苦闘…後継ぎ息子に伝えたい“おもてなし魂”【Jの追跡】(2023年6月3日)
身長2メートル。アメリカのシアトル出身、タイラー・リンチさん(52)が営む、創業72年の温泉旅館。12年前から、日本文化に悪戦苦闘しながらも「魂を込めた」おもてなしと、前向きなチャレンジ精神で奮闘を続けるタイラーさんを追い続けてきました。 そして今回、タイラーさんの長男・アンドリュウさん(23)が、父の背中を追い、群馬県の温泉宿で修業を開始。タイラーさんが後継ぎ息子に伝えたい、信念のおもてなしとは…。 ■情熱と日本の心で…「伝統」守る 舞台は、長野県千曲市。100年以上の歴史を持つ戸倉上山田温泉です。 観光客:「着いた途端、温泉の硫黄の香りがして。情緒があって良い」 26軒の温泉宿が立ち並ぶこの町でタイラーさんが営むのが、創業72年の「亀清旅館」です。 タイラーさんは、この宿を取り仕切る3代目。身長差50センチの妻・磨利さん(52)。結婚29年目の凸凹おしどり夫婦で、切り盛りしています。 お湯は源泉掛け流し、全12部屋のアットホームな宿。コロナ禍も落ち着き、かつての常連客たちが、連日のように訪れています。 4年ぶりに宿泊:「覚えていただいていて、うれしかった。最初は背がスゴく高いから、(子どもが)小さいころはおびえていたんですけど、今は『亀清旅館に行くよ』じゃなくて、『タイラーさんの家に行くよ』」 現在、宿泊客のおよそ2割が、海外からのお客さま。ニッポンのおもてなしが好評です タイラーさん:「浴衣で一番大事なことは、左を上にすること。逆にすると、縁起が悪い」 イギリスからの宿泊客:「知れて良かった」 タイラーさんの信念は、仕事を単なる作業にせず、「魂を込めること」です。 タイラーさん:「布団敷きは、作業だと思ったら終わり。布団を敷く前にお客さんの所に行って、あいさつして。これは田中さんの布団、佐藤さんの布団と気持ちが入るというか、責任が入る」「疲れた。休憩したいけど、これから本番だな」 妻・磨利さん:「だから休めば良いんだよね。普通の宿の人たちは、ゴールデンタイムと言って、午前10時から午後3時までに、休憩時間とるんだよ、絶対に」 お客さんの対応が一段落する時間も、とにかくじっとしていられないのです。 ■最大のピンチに見舞われた…3年前 妻・磨利さんの実家であるこの宿を、タイラーさんが継いだのは18年前。当時、後継ぎがおらず、廃業の危機にありました。 磨利さん:「(Q.なぜ継ぐことに?)一番は…」 タイラーさん:「自分は世界をあちこち旅した中で、日本の旅館がどれだけ貴重か、すごく(分かっていた)。次の世代まで残したほうが良い」 歴史ある温泉旅館を守りたい、そんなの挑戦を私たちは12年前から追い続けてきました。 タイラーさん:「この間、静岡のお客様に怒られた。お兄ちゃん入れ方間違えているよって。教えていただいちゃって」 当初は、日本の文化に悪戦苦闘。破れた障子の張替えに手を焼き、宿泊するお客さんに手伝ってもらったこともありました。 それでも、常に日本の伝統を学び続けてきたタイラーさん。なんと、ハウツー本を頼りに、日本庭園を手作りしたこともありました。 さらに、地元温泉街を盛り上げようと、地元住民の家やお茶屋さんを巡る「街歩きツアー」も始めました。 タイラーさん:「旅館の者として、街の人たちとお客さんの触れ合える場面づくりは、私たちの仕事」 地元住民:「すごいよ、この人。温泉を変えるんじゃない。この上山田温泉を」 そんなタイラーさんが、最大のピンチに見舞われたのが3年前でした。 タイラーさん:「(予約)取り消し、取り消し」 コロナショックが直撃し、宿泊客は9割減。そんななかでも、いつでも前向きに、チャレンジを続けてきました。 タイラーさん:「ただボーッと泣くだけじゃなくて、何ができるか?露天風呂作りを自分で始めよう」 そして今…。 タイラーさん:「客室に露天風呂を付けました!」 タイラーさんが、半年がかりで手作りした2つの露天風呂は、今や外国人にも大好評です。 フランスからの宿泊客:「こうした庭を眺められて、日本ならではの体験ができるのが、すごくうれしいよ」 ここにきて客足は戻りつつあるものの、食材や光熱費の高騰で、月の出費は1年前と比べ、およそ100万円増加。そうは言っても、サービスや料理の質を落としたくはないというタイラーさんは…。 タイラーさん:「汗はいっぱいかくけど、お金はかからない。光熱費が上がっているなかで、薪(まき)ストーブは汗かくだけなんで。インフレーションは関係ないので」 お金をかけずに、汗をかく精神で、コストカットを心がけているといいます。 ■父に憧れ…後継ぎ息子が修行開始 そんなタイラーさんの背中を追い、この春、新たなチャレンジを始めたのが、タイラーさんの長男・アンドリュウさん(23)です。 3月に大学を卒業し、群馬県四万温泉の旅館に就職したのです。 小さな頃から、タイラーさんのお手伝いをしてきたアンドリュウさん。スリッパはピシッとそろえ、シーツのシワも決して許さない几帳面さです。3年前には、こんなことをしていました。 アンドリュウさん(当時19):「自営業なので、そのうち自分が継ぐ。結構おもしろそう」 目指すは、亀清旅館の4代目。「おもしろそう」と言っていた、アンドリュウさんですが…。 アンドリュウさん:「気づくと憧れに変わっていて。この伝統文化を守っていかねば」 修業中の四万温泉で、アンドリュウさんに与えられている仕事は、接客だけでなく、食事の準備や掃除など、多岐にわたります。 掃除は亀清旅館で小学生の頃から続けてきた得意分野ですが…。 先輩スタッフ:「ちゃんと拭いて」 アンドリュウさん:「はい、後で行きます」 先輩スタッフ:「もう拭いた」 アンドリュウさん:「ありがとうございます」 窓に残った、わずかな汚れにダメ出しが入りました。 アンドリュウさん:「(修行先の先輩は)お客様に対する気遣いのレベルが違います。細かい所まで見て、一歩先をいかないといけない」「コーヒーがお好きということで、四万温泉の新しいお店の情報なのですが、エスプレッソの豆を島根県(の店)から取り寄せている」 宿泊客:「良い情報だ。ありがとう」「お客さんのことをすごく勉強していて、すごい」 タイラーさん譲りの接客術は、お客さんにも高評価なのですが、実家の宿の手伝いとは全く違う厳しさを日々感じているといいます。 アンドリュウさん:「毎回、自分はしゃべりすぎて『早くしろ』って言われちゃうことも…」「(Q.タイラーさん、すごくしゃべりますもんね?)そうですね。しゃべりますよね」 ■後継ぎ息子に…伝えたい信念とは? 働き始めて2カ月。この日、帰省したアンドリュウさん。 タイラーさん:「亀清旅館より全然向こうのほうが、色々厳しく『あーしろ、こーしろ』」 アンドリュウさん:「もちろん、そうだよ」 ちょっと疲れた様子のアンドリュウさんに、この日、タイラーさんが伝えたことは一つだけでした。 タイラーさん:「(旅館の息子だから)『やってもいい』という感覚であれば、旅館は絶対失敗する。やるなら思い切って」 異国に飛び込み、挑戦と失敗を繰り返しながらおもてなしを学んでいったタイラーさん。だからこそ、息子にも自分の宿ではなく、あえて甘えの許されない環境で、学んでほしいのだといいます。 アンドリュウさん:「逆風の中でも、いかに新しいことに手を出せるか。成功事例を目の前で見ていたので、憧れますね」 タイラーさん:「自分と妻は、ちゃんとした修業はしてこなかったので。何を勉強してくるか楽しみです。自分たちの知らない世界はいっぱいある」 [テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp

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